→POETRY 10←

《蚕》

ここらが潮時だろうと考えたのは
何も根拠があったわけじゃない
何かしら勘というものが働いたのだろうと
そう思うことにした

原因というものがなにかとは
詳しくなど分からなかったが
それでも確信してしまうのだ
ここから立ち去るべきなのだと

己の限界と言葉なら軽いが
引き時を誤まれば抜け出せない
その重さは身に沁みている

今までそんなことがなかった
というわけではなく
ただここまで酷くはなかっただけ
居心地が良すぎるから留まってしまう

だから
手遅れに
なる前
抜け出そうと
そんな考えしか浮かばなかった
そう思うしかなかった

自由気ままにやってきたから
己がどれほど不安定で
頼りないものかはよく知っている
それでも『自由』という言葉の響きは
不思議なほど蟲惑的で求めずにはいられない

囚われてしまって
何かというのは分からない
それでも心震わすものが存在して
この場から動けなくするモノだと
気付いていた

抜け出せない
上手く制御できないまま
この繭に閉じこもったまま

=2003/11/16=

《玉繭》

徐に消える糸など
ひどく切なく
ひどく悲しく

己を守る壁が消える
己を包む壁が解ける

徐に消える糸など
ひどく頼りなく
そして哀しく

誰かに甘えることも出来ない
誰かに縋ることも出来ない

此処に篭ることも出来ない

=2003/10/31=

《蛹》

想いを
ぎゅうぎゅうに
押し込んで

それでもはみ出てしまうのなら

気付かないフリを
気付かない態度を
本当に
気付かないで

想いを
きゅうきゅうに
捩じ込んで

それでもあふれてしまうなら

見ないフリを
見ない素振りを
本当に
見ないでほしい

空っぽの繭に
想いが積み重なり
いつか
いつの日か

具象して
目の前に現れるとしたら
どれほど
醜い姿なのか

空っぽの繭に
高密度の想い
私の蛹が
宿るときは

現出して
形となるならば
どれほど
歪んだ姿なのか

枯れ葉の中に埋もれた
ガラスの中に閉じられた
琥珀色に輝く
無惨な空骸は

孵るときを待って
変わるときを待って
帰れる場所をと
まだ夢見ているのだろうか

=2003/10/31=

《鶫》

誰も見ぬ
ちっぽけな存在を
ただひたすらに愛で
愛で
私はひどく満足する

充足と安堵に包まれながら
どこか遠い場所を夢見る
翔べないものかと
何度考えたことなのだろう
望んで、止まない

答えなど
今出さなくていい
いずれ分かればいいと
良いと
それなのにまだ

問いの中に言葉はある
この声が届けば
願っているのに
欲しているのに
まだ会えない

問いの中に答えは眠る

=2003/10/29=

《榕樹》

捕らえて放さない
抱いて離さない
黙して話さない
はなすはずもない

絡みついた気根は
解こうとすると
千切れてしまうから
躊躇ううちに
枝にまで擦り寄られ
気付かば
喰らわれる

捕らえて放さない
抱いて離さない
黙して話さない
はなすはずもない

花のように見えたのは
ただの枯れた葉っぱで
黄色く落ちたあとは
毒々しい赤の実を生らす
熟して潰れるのは
樹液のような苦い味

捕らえて放さない
抱いて離さない
黙して話さない

はなすわけもない

=2003/10/24=

《鵺》

誰も私を知らない
誰も私を信じない
誰も私と気付かず
誰も私なんか見ない

それでも
まだ
見て欲しくて
関わりを
保ちたくて

誰もが惑わされてる
誰もが見逃している
誰もが私を識らない
誰もが見落としている

道化のようだと
呟いたのは
自嘲にもとれる
諦め声

誰しも持っている
誰しも遭っている
誰しも蔑むほどの
私という存在は

=2003/10/24=

《鶉》

ひどく小心な性質だから
本当のことを何ひとつ言えやしない
誤魔化してばかりだから
泪ひとつ流せやしない

縋りたいときもあるさ
寄り掛かりたいときもあるさ
けれどそれじゃどうにもならない
ただの甘えに過ぎない

鶉の卵みたいなちっぽけな中身
すくい難いのはどちらも一緒

考えに埋もれてしまえば楽なのに
孵化した雛は何も知らない

ひどく傷心しまうことも多いのに
いつも強がりばかり言うものだから
寂しいと呟いたところで
誰も本気には受け取らない

頼りたいときもあるさ
慰めてほしいときもあるさ
けれどそれじゃなんにもならない
ただのわがままにしかならない

=2003/10/18=

《霞喰み》

寄る辺無きことを
いささかに
いささかに
何事かと
水面にてくすむ

ゆらりと月は霞み

寄る瀬無きことを
しりつつも
しらぬとて
何事をも
さりもあらんと

されど留められず

絶えた糸を手繰りよせ
それもなお
それでもなお
解けゆく横でまたつむぎ

それもなお
それでもなお
辿れもせぬ糸の行方不知して

=2003/09/11=

《ennui》

満たされるなんて
思ってもいない

汚れた塵芥の中から
誰が引きずり出したのやら
あのまま
あの場所で
息絶えたのなら
それほど私に相応しい死に方も
無かっただろうに

そっちの都合で捨てていったのなら
またそっちの都合で引き戻されるのだね
繰り返される嬌声
もう聞き飽きた
繰り返される裂帛
もうウンザリだ

満たされるなんて
思ってもいない

満たされたいなんて
考えた事もない

=2003/09/04=

《記憶》

告げる言葉は遮られ
いつの日か
どこかでか
伝えることが出来るならと
先延ばし
後廻し
共に過ごす時間など
そう長くあるはずもなく
それでも
それでも
願い続ける
貴方が居なくならないよう
祈り続ける
私が居なくならないよう
こばみ続け
あがいても

告げる言葉は失われ
いつの日か
どこかでか
忘れることを望まぬよう

=2003/05/05=

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